ダンス・アーカイヴ in JAPAN 2018 舞踊評論 – 渡辺真弓

■「ダンス・アーカイヴ in JAPAN 2018」次世代へつなぐ創作の魂
渡辺真弓(ダンスマガジン  2019年3月号)

日本の創作舞踊のパイオニたちの作品を復元上演し、日本の洋舞の原点を振り返りつつ、未来を展望しようという試み、「ダンス・アーカイヴ」の第3弾が開催された。反響を呼んだ2014年、15年に続く今回は、戦中、戦後を駆け抜けた3人の個性派、藤井公、若松美黄、庄司裕にスポットを当てたものである。

上演に先立って、映像で各自の業績が紹介されたのはこまやかな配慮。作風は三者三様ながら、いずれも同時代の世の中を見つめる鋭い視線が反映されているのが新鮮である。

第1部の『砂漠のミイラ』(93年)は、構成・演出・振付藤井公・利子。秋谷豊の同名の詩集に触発されたもので、「蜃気楼」から「吟遊詩人」「魂の共鳴」などを経て「砂漠のミイラ」へと刻一刻と移り変わる砂漠の風景を描写した50分の力作である。何と言っても20名を超す群舞の迫力が圧倒的。山本直の音楽構成が変化に富んでいて、砂漠に眠るミイラの再生を想起させるような音響に耳を奪われる。隊列を組み、群を成し、身を震わせ、うねらせ……と動きは素朴ながら、たくましくダイナミックな群舞へと昇華させた点に、振付家の手腕が光る。

第2部最初の若松美黄作品『獄舎の演芸』(77年)は、囚人の目から見た世の中を描いた異色のソロ。音楽はクルト・ワイルほか。囚人の演芸とは意表を突くタイトルだが、高比良洋の10分間のソロには、孤独感や悲哀が凝縮され、時代の空気が漂う。伸縮性の衣裳にすっぽりくるまり身動きできない様子はどことなく滑稽でユーモラス。ひょうひょうと生きる姿に振付家の面影がよぎる。作品責任者は小柳出加代子、窪内絹子。

3本目の庄司裕振付『八月の庭』(94年)は、直接反戦のスローガンを掲げてはいないものの、じわじわと不安をあおり、クライマックスで主張を伝える手法があざやかである。作品責任者中井惠子。長いドレスを着て踊る女性たち、その背後に忽然と現れるひまわりの花を散りばめた傘。女性群舞の清楚な美しさを引き立たせたかと思うと、突如みなが倒れ、原爆の投下を暗示。美が破壊された空しさを悟らせる。安良岡章夫作曲の楽曲の弦の繊細な響きが効果的で、宝満直也、船木こころ、米沢麻佑子らが集中度の高い踊りで再演に貢献した。

先人たちの創作の魂を受け止め次につなげていく有意義なこの企画。企画運営委員会(代表正田千鶴)の労をねぎらうとともに、次回に向けて発展していくことを願う。

日時
2018 年 11 月 24 日(土)開演14:00
会場
新国立劇場中劇場