第39回(令和3年)江口隆哉賞 授賞者のお知らせ

2022.04.05

第39回江口隆哉賞授賞者が 笠井 叡氏に決定しましたのでお知らせいたします。

【受賞のことば】
この度は、江口隆哉賞という、思いもかけぬ賞を賜りまして、途端に、いま自分を他人のように感じております。僕が初めてダンスの世界に触れたのは、1961年、都立大学駅近くの江口隆哉・宮操子舞踊研究所に入門した18歳の時です。僕にとって、江口隆哉先生はあまりに偉大で、自ら言葉を交わす機会もほとんどなく、3年後に、先生のもとを去りました。新しいダンスを見いだすためにそうしたのではなく、「舞踊とは何なのか」という問いかけ以上に、「カラダとは何なのか」という舞踊以前のところに、突き戻されてしまったからです。だからダンスする時は、常にダンスは僕を存在の根源にまで連れ戻してくれます。ダンスは僕にとって常にゼロ地点なのです。今年2月の末から大国ロシアがウクライナに侵攻し、突然、第2次世界大戦以来の「戦争の時代」に突入しました。戦争とは、人間のカラダの中の「カオス性」「暴力性」が本能的に外化することによって生じるものです。そして領土問題や政治的な取引を超えて、僕たちが戦争を真に克服できるのは、存在の根底と結びついている舞踊、ダンスの力です。人間にとってダンスは「戦争の対極」です。ダンスこそ、「戦争というカオス」を「コスモス」に変える力があります。あの都立大学の稽古場の壁には、「叡智の炎 」を右手に高く掲げ、プロメテウスに化身した江口隆哉先生の大きな写真が掛かっておりました。僕があの稽古場に行かなくなった後も、あのプロメテウスの写真だけは、常に僕の心の中に甦ってくるのです。そして僕のダンスは、ここから生まれたのだと、戦争を克服することのできるダンスがここにあるのだと、自分に語りかけています。今回の受賞対象の作品は日本の次世代を担う、僕よりはるかに若い5人の男性ダンサーにより踊られた『櫻の樹の下には』ー笠井叡を踊るーです。共に受賞の喜びを分かち合いたいと思います。

 

 

 

 

 

笠井 叡

※江口隆哉賞
わが国における現代舞踊の振興と協会の繁栄に尽力した故江口隆哉元会長の功績を記念して、1983年に制定されたもっとも権威ある現代舞踊賞です。毎年1月1日~12月31日までの期間、優れた現代舞踊作品を創作発表した作者に対し、過去の実績を加味し授与しています。

第39回江口隆哉賞選考委員
舞踊評論家  うらわまこと(委員長) 池野 惠  高橋森彦
独立行政法人日本芸術文化振興会プログラムオフィサー 馬場ひかり
一般社団法人現代舞踊協会   副会長 池田瑞臣  同常務理事 加藤みや子  同理事長 野坂公夫

 

 

一般社団法人現代舞踊協会制定 第39回江口隆哉賞 笠井 叡


「櫻の樹の下には」-笠井 叡を踊る-(撮影:bozzo)

受賞理由
長年に亘り、独自の美学に裏打ちされた世界を構築し、さらなる進化を遂げる第一線の舞踊家としての活動と、2021年2月4~7日に行われた公演「櫻の樹の下には」-笠井 叡を踊る- においては、次世代の男性ダンサー5人を起用し、明解なコンセプトの元、優れた演出力で、身体のリアリティと憑依するものとの交錯する、秀逸な作品を創り上げた成果が認められた。自ら命名した〈ポスト舞踏〉として、日本の現代舞踊の新しい展開を提示し、エポック的な作品となったことも特筆すべきことである。身をもって連綿と続く日本人の精神文化を反映した舞踊を引き継ぎ、次世代に繋げようとする強固な意志が感じられ、開かれた眼で見極め思考する知性と原初的な鋭い感性、身体性を兼ね備えた、絶え間ない創作エネルギーは、近年多くの秀作を生み出し、賞賛されるものである。
略歴
1961年~64年 江口隆哉氏にモダンダンスを師事する。
1963年 大野一雄氏と土方巽氏と出会い、その後、暗黒舞踏公演に出演。
1966年8月 処女リサイタル「磔刑聖母」発表ののち、次々とソロ作品を発表。
1971年 舞踊研究所「天使館」を創立。以後多くのダンサーを輩出。
1972年6月 現代思潮社より『天使論』上梓。
1977年1月 現代思潮社より『聖霊舞踏』上梓。
1979年3月 現代思潮社より『神々の黄昏』上梓。
1979年8月 ドイツへ渡り、10月シュトゥットガルトのオイリュトメウムに入学。
1985年4月 帰国。各地で人智学・オイリュトミーの講座、公演を行う。
1991年 オイリュトミスト養成の為の四年制のオイリュトミー学校「天使館」設立。
1994年1月 渡独以来15年間ぶりにダンスの舞台公演『セラフィータ』を行ない、以後、精力的に舞台作品を発表。
1995年6月 サンフランシスコにて舞踏公演。10月ソウル公演。
1996年3月・4月 北米ツアー公演「舞踏のニジンスキー」と絶賛される。
1996年9月・10月 南米ツアー。
1997年8月 サンフランシスコにて舞踏公演、以来数年間、同市で新作の発表を行う。
2001年4月 6年ぶりのソロ公演『花粉革命』。以後世界各都市で上演。
2002年10月 デュオ作品『銀河計画』(伊藤キム氏と)。
2003年8月 4名の女性ダンサーに振付けた作品『nobody Eve』を発表。
2004年7月 荻野目慶子氏とダンスと朗読のセッション公演『サロメ』
2004年9月~10月 北米ツアー公演『花粉革命』それ以後、ほぼ毎年新作を発表。
2019年 『今晩は荒れ模様』公演
2020年 澁澤龍彦原作『高丘親王航海記』を京都、東京で公演
2021年 『櫻の樹の下には』-笠井叡を踊る-公演